金曜日はナイスデーに?振り向けばヒマール

2012年02月12日

険しい道のり

1月12日

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「わたしね、誰よりも早く裏返せるんだよ」。
ビニタ(2年生)はそう言うと、屈託のない笑顔を浮かべながら日干し煉瓦を裏返す作業を見せてくれた。先週末、山の上の村に往診へ向かう途中、ビニタが暮らす煉瓦工場に立ち寄った時の事だ。型枠から取り出した生乾きの煉瓦を乾燥させるため、全面に満遍なく陽が当たるよう煉瓦をひっくり返すのが、ここでのビニタの役割らしい。「なんて早いんだ。驚いたな」と言うと、ビニタははにかんで頬を赤らめた。

ビニタの少し離れたところには、3年生で学ぶ兄のユブラージが煉瓦の元となる土を掘起す作業に精を出し、その隣では母親が末っ子を抱えたままユブラージが掘り起こした土を煉瓦の型枠に入れる作業を行っていた。親子3人、土にまみれた表情からは、生きている逞しさが伝わって来た。

母親とユブラージ、ビニタ、それに障害を持つ一番下の弟(4歳)の一家4人が煉瓦工場に移り住んだのは半年ほど前の事。それまで母親はブンガマティ村周辺の建設現場などで日雇い労働をして一家4人を支えていたが、物価高騰により以前にも益して生活が苦しくなったため、より収入のよい日干し煉瓦を作る仕事を始めたそうだ。収入が良い、と言っても歩合制のため家族総出で仕事に当たらなければ間に合わない。最近、ユブラージやビニタが学校を休みがちな理由はここにあった。

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作業場の傍にある日干し煉瓦を積み上げただけの小屋で一家は暮らしている。薄暗い部屋の隅にはユブラージとビニタの制服が吊るされ、床には教科書とノートが散らかっていた。さっきまで宿題をしていたのだろうか、2冊のノートが開いたままだった。室内を案内してくれたビニタが部屋の隅の物置から、先日こっそりあげた兄妹の写真を取り出して見せてきた。「大事にしてくれていたんだ」。ビニタの喜びが伝わってきて嬉しかった。写真を見つめながらビニタが、「お母さんと弟の写真も欲しいなぁ」と囁いた。

暫くすると仕事の手を止めた母親が小屋の傍まで来て、額の汗をぬぐいながら、「お茶でも飲んで行ってくださいな」と言って来た。お礼だけ言ってお茶を断わると、母親は不安げな表情を浮かべながら、「あのぅ、制服代のことですけど、何とかなりませんかね」と言ってきた。

制服代の事、というのは、昨年、将来の学校の自立を目指す活動の一環として、開校以来、初めて児童から制服代の一部を徴収した件のことだ結果的に全校児童が制服代を納めはしたものの、今でも一部の保護者から不満の声は大きい。「家は2人も(学校に通って)いるんでね、生活も見ての通りです」と苦しい胸の内を語った母親。窮状を考えると無理もない。わずか100円足らずとはいえ、母親にとっては大きな負担だ。

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実は新年度から特別活動費という名目で児童から毎月30円程度を徴収する事も決まっている。徴収したお金で直ぐに学校が運営できるわけではないが、10周年を迎える2014年度までにある程度、自立に向けた道筋をつけたいというのが学校運営委員会としての思いだ。もちろん、その考えを理解してくれる保護者も年々増えてはいるものの、児童の家庭の実情を考えると、まだまだ厳しいのが現実だ。

先日、ヤッギャ校長とモンゴル先生と3人で、今後の制服代や特別活動費について話し合いを行ったが、どうしても徴収が厳しい家庭は免除すべきだろう、という意見が纏まり、その判断はヤッギャ校長に一任することが決まった。まだ非公式ではあるがユブラージとビニタの2人も母子家庭という事で免除(あるいは一人だけ免除)の対象になる事がほぼ決まっている。未だ非公式の決定なので、母親にその旨を伝える事は出来なかったが、母親の声を学校に届ける事を約束して、煉瓦工場を後にした。

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煉瓦工場から往診先の村へ向かう道中の丘に立ち、煉瓦工場の方を振り返ると、ユブラージとビニタがこちらを向いて大きく手を振っていた。ビニタが両手を口に添え何か叫んでいる。「今日撮った弟の写真、絶対ちょうだいね〜」そんな事を言ったのかもしれない。息が上がった僕は2人に手を振るのがやっとだった。通いなれた山道が今日はとても険しく、そして長く感じた。


お知らせ


YOUプロジェクト@新宿・BEER&CAFE ベルク

2012年2月1日(水)〜29日(水)
BEER&CAFE ベルク新宿区新宿3−38−1
ルミネエスト B1
(新宿駅東口改札口より15秒)
7:00〜23:00


谷口卓也ソロライブ「初花月-はつはなづき-」

ヒマラヤ小学校開校5周年フォーラムで第一期卒業生のラクシミと共演して頂いた太鼓奏者、谷口卓也さんのソロライブが渋谷PLUGで開催されます。谷口さんは現在、ドイツを拠点に活動中。一時帰国の貴重なライブです。どうぞお運びください。

2012年2月14日(火)
場所・渋谷PLUG
開演・19時30分
出演・谷口卓也(太鼓)ゲスト・小山豊(津軽三味線)、Waccha(ボイスパーカッション)
料金・前売り 2500円、当日 2800円


めぐり閉店イベントの案内 by TYOマガジン

ヒマラヤ小学校の心の拠り所であり、支援者の皆さんを繋ぐ交流の拠点である「めぐり」が2012年2月いっぱいで残念ながら閉店することになりました。閉店を前に楽しいイベントが多数開催されます。ぜひ、皆様お運びください。イベントについてはTYOマガジンで紹介されていますので、ぜひお目通しください

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